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祖母の単衣

コロナ禍の中の長い休暇で本当に自分が成し遂げたい事が見えてきました。生業の呉服屋ということを抜きにしてもやはり私は着物が何よりも大好きだと言うこと、自分で着るのも人様の着姿を見せていただくのもこの上ない喜びなのだと。着物を纏える日本人に生まれて良かったと心の底から湧き上がる思いを、形にして残したい。世界広しと言えども、たかが布にこれだけの命を注ぎ込むのは日本人だけです。着物の事を調べていけばいくほど、その複雑怪奇と言ってもいいくらいの手仕事の有り様に、気が遠くなります。一本の糸に一筋の線に込める職人技の見事さ。そして思いの着物を纏う一人一人に有る物語の数々。着物一枚に込められたストーリーを、力不足は承知の上で綴ってまいりたいと思います。

先ずは言い出しっぺの私から。恥を忍んでトップバッターをつとめます。皆様ついてきて下さいね。次はあなたかもしれませんよ。カメラマンは紹介の欄でもプロフィールを書きましたが肖像画を書くのを趣味としています。

人を見る目は確かです。じっくり時間をかけてあなたの隠れた魅力を引き出します。 

祖母の着物。一人娘である母を溺愛していた祖母は母が二十歳の時に亡くなりました。会った事もない祖母の面影は母が繰り返し語ってくれたお陰で私の中で生きてます。古い箪笥から洗い張りの反物で出て来ました。私の寸法にはギリギリでしたので仕立て屋さんが上手に形にしてくれました。昔の日本の絹は軽くて柔らか、色柄から華やかな昭和の初め頃の着物だと思います。優に百年の歳月を経ています。

帯は現代の物ですが全体をアンティーク風に纏めたかったので古典柄の刺繡帯を選びました。蘇州刺繡で葦に雁です。茶道の嗜みと同様、季節の移ろいよりほんの僅か先取りで。

帯留は母の物。輪島塗、紅葉です。三分紐は現代の色、帯と帯留の引き立て役なので生かすも殺すもこの三分の色が大切。